2026年3月9日、出入国在留管理庁(入管庁)は技術・人文知識・国際業務(以下「技人国」)ビザに関する派遣就労の審査運用を大幅に厳格化しました。
これまで多くの企業は、「派遣会社が在留資格を確認してくれているから大丈夫」と考え、外国人スタッフの就労管理を派遣元に丸投げしてきました。しかしこの慣行は今後、派遣先企業自身を不法就労助長罪に問われる重大なリスクへとつながります。
本記事では、技人国ビザの派遣に関して「何が変わったのか」「なぜ厳格化されたのか」といった厳格化の背景から、派遣元・派遣先がそれぞれ今すぐ取るべき対策まで、行政書士の視点からわかりやすく解説します。
派遣で外国人を受け入れている企業様、また外国人を派遣している派遣会社様はぜひ最後までご確認ください。
技人国ビザとは?派遣での利用が認められる条件
技人国ビザは、すべての外国人が取得できる在留資格ではありません。対象となる業務の種類や、派遣形態での利用に関しても明確な条件があります。ここでは、技人国ビザの基本についておさらいします。
技人国ビザの定義と対象業務
「技術・人文知識・国際業務」ビザ(技人国ビザ)は、大学等で習得した専門的・技術的な知識・技術を活かした業務に従事するための在留資格です。対象となる代表的な業務は以下のとおりです。
- 技術系:システムエンジニア、プログラマー、機械設計、建築設計など
- 人文知識系:経営企画、財務・経理、法務、マーケティング、人事など
- 国際業務系:翻訳・通訳、語学指導、海外取引業務、広報など
「専門業務」と「単純労働(現業)」の違い
技人国ビザで就労できるのは、大学レベルの専門知識を必要とする業務に限られます。以下の業務は「単純労働(現業)」に該当し、技人国ビザでは原則として従事できません。
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業種 |
従来 |
2026年3月以降 |
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製造業 |
企画・設計・品質管理(専門職) |
工場のライン作業・仕分け(現業) |
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飲食業 |
メニュー開発・マーケティング(専門職) |
ホール接客・調理・皿洗い(現業) |
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物流業 |
需要予測・システム管理(専門職) |
倉庫内ピッキング・仕分け(現業) |
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宿泊業 |
予約管理・マーケティング(専門職) |
客室清掃・フロント接客(現業) |
注意点としては、「1日のうち少しでも専門業務があれば、残りの時間に工場のライン作業や飲食店のホール接客などをさせても問題ないだろう」といった解釈は誤りです。従事する業務全体が、専門的な知識・技術を要するものである必要があります。
派遣形態での技人国ビザが認められるための前提条件
技人国ビザは直接雇用のみならず、派遣形態でも取得が可能です。ただし、派遣での就労が認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 派遣先での業務が技人国ビザの対象業務(専門的業務)に該当すること
- 大学・専門学校等での専攻と、業務内容の関連性が認められること
- 派遣元(派遣会社)との雇用契約が適正であること
- 申請時点で派遣先が確定しており、具体的な業務内容が証明できること(2026年3月改正後)
何が変わったのか?5つの厳格化ポイント
2026年3月9日以降、技人国ビザの派遣就労に関して、以下の5つの点が大きく変更されました。
- 派遣元・派遣先双方の誓約書提出が必須に
- 申請時点で派遣先の確定が必須に
- 在留期間が派遣契約期間に連動する
- 入管による実地調査の実施
- 更新時の提出書類が大幅増加
続いて、それぞれの厳格化のポイントを詳しく見ていきましょう。
派遣元・派遣先双方の誓約書提出が必須に
従来、技人国ビザの審査は主に派遣元(派遣会社)側の書類で行われていました。しかし今後は、派遣元と派遣先双方の責任者が署名した誓約書の提出が義務付けられます。
誓約書には以下の内容が盛り込まれています。
- 技人国ビザの活動範囲を正しく理解していること
- 単純労働(現業)には絶対に従事させないこと
- 入管庁からの調査・確認に誠実に協力すること
誓約書にサインした以上は、「派遣会社がOKと言ったから」という言い訳は通用しません。派遣先企業も直接責任を負うことになります。
申請時点で「派遣先」の確定が必須に
従来は、派遣会社がビザを取得・更新した後に派遣先を探すという運用が、事実上できてしまうケースもありました。
しかし今後は、申請時点で派遣先が確定しており、派遣先での具体的な業務内容が証明できなければ、ビザは不許可となります。「とりあえずビザを取っておく」という運用は事実上できなくなりました。
在留期間が「派遣契約期間」に連動する
従来は、派遣元(派遣会社)との雇用契約が長期・無期であれば、「安定した雇用関係がある」とみなされ、3年などの長期ビザが発給されやすい傾向にありました。
しかし今後は、派遣先企業との派遣契約期間が在留期間の判断に直結します。
たとえば、派遣元との雇用契約が無期であっても、派遣先との契約が「6ヶ月」であれば、入管庁は「この人が実際に専門業務に従事できる期間は6ヶ月分しか確認できない」と判断し、在留期間が1年や6ヶ月などの短期で決定される可能性があります。
つまり、「派遣会社に長期で雇われているから長いビザがもらえる」という従来の前提が崩れたということです。派遣先との契約更新のたびにビザの更新申請も必要になるケースが増え、企業・外国人双方にとって手続き負担が増加します。
入管による派遣先への「直接確認・抜き打ち実地調査」の実施
入管庁は、書類審査だけでなく、派遣先企業へ電話での直接確認や抜き打ちの実地調査を行うことを明確に示しました。これは誓約書にも明記されています。
入管が現場で直接、業務内容の実態を確認することによって、「書類上は専門職に見せかけて、実際の現場では現業をさせる」という手口は今後一切通用しなくなります。
更新時の提出書類が大幅増加
技人国ビザの更新申請時に、以下の書類が新たに追加されました。
- 派遣元管理台帳(就業日・労働時間・苦情処理等の記録)
- 派遣先管理台帳(同上)
- 就業状況報告書(実際の業務内容の詳細な報告)
これらの書類により、入管庁は許可後の業務が適法かどうかを事後的にチェックします。管理台帳や報告書の内容が誓約書と矛盾・虚偽があった場合は、更新不許可・ビザ取消し・罰則の対象となります。
なぜ今、厳格化されたのか?背景と原因
技人国ビザの派遣就労が今回これほど厳しく見直された背景には、制度の悪用が長年にわたって横行してきたという現実があります。ここでは、制度本来の趣旨と、何が問題視されてきたのかを整理します。
技人国ビザの本来の趣旨
そもそも技人国ビザは、大学・大学院・専門学校等で習得した専門的・技術的な知識や技術を活かした業務に従事するための在留資格です。対象となる業務はエンジニアリング、経営企画、マーケティング、翻訳・通訳など、いずれも高い専門性を前提とするものに限られます。
この在留資格が設けられている目的は、日本企業がグローバルな人材を活用し、専門的な業務において外国人の知識・経験を活かすことにあります。工場のライン作業や飲食店での接客・調理といった、特別な専門知識を必要としない業務への従事は、制度の趣旨から完全に外れており、本来であれば認められないものです。
また、技人国ビザで就労する外国人本人にとっても、専門性を活かせない環境に置かれることはキャリア上の不利益につながります。制度は、企業と外国人材の双方にとって適正に運用されることを前提として設計されています。
横行していた違法就労の実態
技人国ビザを持つ外国人を派遣という形態を通じて、書類上は専門職として申請しながら、実際の派遣先では以下のような単純労働に従事させるケースが広く見られました。
- 工場のライン作業・ピッキング
- 倉庫内の仕分け・梱包
- 飲食店でのホール接客・調理・皿洗い
- ホテル・旅館での客室清掃
派遣元(派遣会社)による問題
違法就労が広がった背景の一つに、一部の派遣会社による制度の意図的な悪用があります。自社の利益のために技人国ビザの対象業務を拡大解釈し、実態とかけ離れた申請が行われてきました。具体的には以下のような手口が見られました。
- 1日のうち少しだけ通訳・翻訳業務をさせ、残りの時間にライン作業や接客といった現職をさせていた
- 「ライン作業の進行管理」を「生産管理」、「備品管理」を「経営管理」などと言い換えて、高度な専門業務であるかのように申請していた
派遣先(受け入れ企業)による問題
問題は派遣会社だけにとどまりません。派遣先企業(受け入れ企業)の中には、見て見ぬふりをしていたケースも少なくありませんでした。現場で外国人スタッフが本来従事できない業務をしていることを把握しながら、「派遣会社がOKと言っているから」「何かあれば派遣会社の責任」という理由で黙認するケースが多数存在していました。
派遣という形態は構造上、「誰がどんな業務をさせているか」の責任の所在が曖昧になりやすい特性があります。この構造が、違法就労を見えにくくし、長年にわたって放置される温床となってきました。
入管庁はこうした悪質な実態を解消すべく、制度の構造に根本からメスを入れるため、派遣先企業にも直接責任を負わせる手段に踏み切ったのです。
違反した場合のリスク
「知らなかった」「派遣会社がOKと言っていた」では済まされないのが、不法就労に関するルールです。違反が発覚した場合、派遣元・派遣先の双方に対して、事業継続を脅かしかねない深刻なリスクが生じます。
ここでは、違反した場合のリスクについて解説します。
不法就労助長罪とは
不法就労助長罪(入管法第73条の2)は、外国人に不法就労させた事業者や、それを助長した者を処罰するための規定です。
罰則:3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方(併科) ※近年の厳罰化により、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金とする方針も示されています。
ここで重要なのは、「知らなかった」「派遣会社から適法だと言われた」という理由では済まされず、責任を負う形になるという点です。
派遣元と派遣先のリスク
派遣元と派遣先が直面するリスクには次が挙げられます。
派遣元(派遣会社)が直面するリスク
- 不法就労助長罪による刑事罰(法人も対象)
- 外国人派遣事業の許可取消し・停止
- 社会的信用の失墜・取引先からの契約解除
- 過去の全案件の遡及調査による追加処分
派遣先(受け入れ企業)が直面するリスク
- 不法就労助長罪による刑事罰(経営者個人も対象)
- ビザ更新不許可による現場スタッフの突然の喪失
- 入管庁からの業務停止命令・行政処分
- 社会的信用・ブランドイメージの大幅な低下
派遣元(派遣会社)が今すぐ取るべき対策
今回の厳格化で最も直接的な影響を受けるのは派遣会社です。これまでの運用を見直さなければ、外国人派遣事業そのものが継続できなくなるリスクがあります。
既存案件の総点検
現在派遣中の技人国スタッフについて、実際の現場での業務内容を直ちに確認してください。具体的な確認項目は以下のとおりです。
- 派遣先での実際の日常業務の内容(作業単位で確認)
- 単純労働(現業)が含まれていないか
- 派遣元管理台帳・派遣先管理台帳の整備状況
もし、少しでも現業が含まれている場合は、以下のいずれかの対応が必要です。
- 派遣先と協議のうえ、業務内容を専門業務のみに再設計する
- 現業が避けられない場合は、当該スタッフを引き揚げる
ビジネスモデルの転換(特定技能・人材紹介へのシフト)
現場作業を求めるクライアントに対して、安易に技人国ビザで派遣することはできなくなりました。以下の代替手段へのシフトを検討してください。
- 特定技能ビザの活用:農業・漁業等の例外を除き原則として直接雇用のみ可。製造・飲食・宿泊など特定産業分野で現場業務に従事可能
- 人材紹介(職業紹介)事業への転換:直接雇用につなぐ形で外国人材を供給するモデル
- 登録支援機関としての支援業務:特定技能外国人への生活・就労サポート業務
社内管理体制の整備
- 技人国ビザの活動範囲に関する社内ガイドラインの策定
- 営業担当者・コーディネーターへのコンプライアンス研修の実施
- 案件受注前の業務適法性チェックシートの導入
- 派遣先管理台帳・就業状況報告書の適正管理フローの構築
派遣先(受け入れ企業)が今すぐ取るべき対策
派遣先企業は「受け入れるだけ」の立場ではなくなりました。誓約書へのサインにより、派遣会社と同等の法的責任を負うことになります。ここでは、企業として対応すべきことを解説します。
丸投げからの脱却:自社での在留資格確認
誓約書にサインする以上、派遣先企業も技人国ビザの内容を正確に理解する必要があります。まず以下の点を自社で確認してください。
- 受け入れるスタッフの在留資格(ビザの種類)は何か
- 自社が任せようとしている業務は「大学レベルの専門知識を要する業務」に該当するか
- 日々の業務の中に現場作業(ライン作業・配膳・清掃など)が含まれていないか
現場責任者への教育徹底
工場長・店長・現場マネージャーなど、外国人スタッフに直接指示を出す担当者への教育が最重要です。
- 「技人国ビザのスタッフには現業(ライン作業・配膳・清掃など)をさせてはいけない」というルールを明文化し周知する
- 「人手が足りないから少しだけ手伝ってもらう」という慣行が法的リスクになることを理解させる
- 万が一、業務内容に疑問が生じた場合は、即座に人事・法務部門または派遣会社に確認する体制を整える
誓約書にサインする前の確認事項
誓約書への署名は法的責任を伴う重大な行為です。サイン前に必ず以下を確認してください。
- 誓約書の内容を法務・人事部門の責任者が確認・承認しているか
- 派遣スタッフが従事する業務の詳細を書面で取り付けているか
- 不明点は派遣会社または行政書士等の専門家に確認しているか
技人国から特定技能への切り替えは選択肢になるか?
「現場業務に従事させたいが、技人国ビザでは対応できない」といった場合、特定技能ビザへの切り替えが解決策になるケースがあります。
ただし、特定技能にも独自のルールがあるため、切り替えの前に制度の違いを正しく把握しておく必要があります。
特定技能ビザとは
特定技能ビザは、深刻な人手不足が生じている特定の産業分野において、一定の専門性・技能を持つ外国人が就労できる在留資格です。製造業・飲食業・宿泊業・介護・建設・農業など14の特定産業分野が対象となっており、現場業務への従事が認められます。
技人国ビザから特定技能ビザへの切り替えが有効なケース
以下のような状況では、技人国ビザから特定技能ビザへの切り替えが有効な選択肢となります。
- 現場での製造・加工・調理・清掃等の業務が主な業務内容である
- 大学での専攻と現業との関連性が乏しく、技人国の要件を満たすことが困難
- 長期的に安定して外国人材を雇用したい(特定技能1号は最大5年、特定技能2号は無期限更新可)
特定技能ビザの主な注意点
特定技能ビザの切り替えにはいくつかの注意点があります。具体的には次のとおりです。
- 原則として直接雇用のみ(農業・漁業等の例外を除き、派遣は不可)
- 特定技能評価試験または技能実習2号修了が要件(ビザ切り替えには審査あり)
- 受け入れ企業は登録支援機関との契約または自社での支援計画策定が必要
上記を踏まえたうえで、もし「現場で働いてほしいが、技人国では対応できない」という場合は、特定技能への切り替えを検討してみてください。当事務所では切り替え申請のサポートも行っております。
まとめ
2026年3月9日以降、技人国ビザによる派遣就労は、派遣元・派遣先双方が誓約書を提出し、共同で責任を負う制度へと大きく転換しました。「派遣会社任せ」の運用は通用しなくなり、入管庁による実地調査も制度化されたことで、現場の実態が直接確認される時代となっています。
製造・物流・飲食・宿泊業等の現場で技人国ビザの外国人を受け入れている企業は、早急な点検が必要です。「自社の対応は大丈夫だろうか」と少しでも不安を感じた方は、専門家への相談をおすすめします。さむらい行政書士法人では、初回相談は無料で承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。
