2027年4月、外国人の技能実習制度が廃止され、新たに「育成就労制度」が施行されます。この変更は単なる名称の掛け替えではありません。制度の目的・転籍ルール・日本語要件・費用負担の仕組みまで、企業の受け入れ実務に直接影響する内容が大幅に変わります。
技能実習生をすでに受け入れている企業はもちろん、これから外国人採用を検討している企業にとっても、この制度転換の内容を正確に把握しておくことが不可欠です。本記事では、育成就労制度とは何か・なぜ技能実習が廃止されたのか・技能実習と比べて何がどう変わるのか・企業が今から準備すべきことを、行政書士の視点からわかりやすく解説します。
育成就労制度とは何か?
育成就労制度を一言で表すと、「3年間で特定技能1号レベルの人材を育てる制度」です。技能実習制度との最大の違いは、制度の目的にあります。
技能実習との根本的な目的の違い
これまでの技能実習制度は、「日本で技術・知識を学び、母国に持ち帰って母国の発展に寄与すること(国際貢献・技能移転)」を建前上の目的としていました。しかし実態は、日本の深刻な人手不足を補う労働力として機能しており、目的と実態が大きくかけ離れた制度でした。
育成就労制度は、この建前を取り除き「人材育成・人材確保」を正面から目的として掲げています。3年間の就労を通じて一定の日本語能力と専門技能を習得してもらい、修了後はスムーズに特定技能へ移行する。育成就労→特定技能1号→特定技能2号という中長期的なキャリアパスが制度設計に組み込まれている点が、最も大きな特徴です。
受け入れ予定人数123万人の意味
政府の方針では、新しい育成就労とその先の特定技能を合わせた受け入れ上限を、合計で約123万人(育成就労42万6,200人・特定技能80万5,700人)と設定しています。奈良県の人口が約127万人であることを考えると、その規模感がイメージしやすいでしょう。
ただし、この123万人は「新たに123万人を上乗せする」という意味ではありません。2025年6月時点で特定技能外国人が約33万人・技能実習生が約45万人、合計約78万人がすでに在留しており、これらも含めた全体の上限が123万人という設定です。つまり今後の実質的な増加余地は約45万人分となります。なお、受け入れ対象分野は特定技能制度の開始時から拡大しており、最近では「物流倉庫」も新たに追加されました。
なぜ技能実習制度は廃止されたのか?3つの問題点
技能実習制度の廃止は、長年にわたって指摘されてきた構造的な問題が積み重なった結果です。主な問題点は以下の3つです。
目的と実態のズレ
最も根本的な問題が、制度の目的と実態のかけ離れです。「国際貢献・技能移転」という建前のもとで設計された制度が、現実には日本の人手不足を補う労働力確保の手段として機能していました。この矛盾が、制度全体の歪みの原点となっていました。
転籍できない構造が生んだトラブル
技能実習制度では原則として転籍が認められていませんでした。そのため、労働環境が劣悪であったりハラスメントを受けていたりしても、外国人労働者は逃げ場がない状態に置かれていました。この構造が失踪や人権侵害問題の温床となり、国際社会からも強い批判を受け続けた要因です。
キャリアパスの不透明さ
技能実習制度には、修了後のキャリアの道筋が非常に見えにくいという問題がありました。技能実習1号のみで終わる職種が存在し、1号から2号に移行できる職種でも、そのすべてが特定技能1号に進めるわけではなく、一部の職種では修了後に帰国するしか選択肢がありませんでした。育成就労制度はこうした状況を改め、3年間で育成したうえで特定技能へ進むルートを明確化しています。
技能実習と比べて何がどう変わるのか?6つの変更点
育成就労制度では、技能実習制度と比較して以下の6点が大きく変わります。まず全体像を比較表で確認してください。
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技能実習制度(旧) |
育成就労制度(新) |
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① 制度の目的 |
国際貢献・技能移転(建前) 実態は人手不足の補填 |
人材育成・人材確保(実態と一致) 特定技能への移行を前提とした制度 |
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② 受け入れ分野 |
技能実習独自の職種体系 特定技能と一致しない場合あり |
原則として特定技能の産業分野と一致 移行時のミスマッチが解消 |
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③ 転籍 |
原則不可 (劣悪な環境でも移動困難) |
1〜2年の制限期間後、 一定要件を満たせば本人意向で可能 |
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④ 日本語要件 |
なし |
新設(就労前〜3年目で段階的に設定) N5→N4レベルへのステップ |
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⑤ 監理体制 |
監理団体 (許可要件が比較的緩やか) |
監理支援機関に名称変更 外部監査人の設置が義務化 |
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⑥ 費用負担 |
送り出し機関手数料が不透明 本人が多額の借金を背負うケースあり |
本人負担の上限を月給2ヶ月分に設定 転籍費用は転籍先が按分して負担 |
以下では、企業の受け入れ実務に特に影響が大きい変更点について、それぞれ詳しく解説します。
変更点1. 制度の目的が実態に合った内容に変わった
これまでの技能実習制度は「国際貢献・技能移転」を目的としていましたが、あくまで建前であり、実態は日本の人手不足を補う労働力確保の手段となっていました。育成就労制度ではこの建前を撤廃し、「人材育成・人材確保」を正面から目的として掲げています。
企業側にとっても、「実習生を受け入れる」という発想から「採用・教育・評価を行う」という意識への転換が求められます。育成就労→特定技能1号→特定技能2号という明確なキャリアパスが制度設計に組み込まれており、長期的な人材確保の視点が前提となっています。
変更点2. 受け入れ分野が特定技能と一致する
育成就労の受け入れ分野は、原則として特定技能制度の産業分野と一致するよう設計されています。技能実習制度では独自の職種体系が採用されていたため、技能実習を修了しても特定技能の職種と合わず移行できないケースがありました。
育成就労ではこのミスマッチが解消され、修了後に特定技能へスムーズに移行できる仕組みが整います。物流倉庫など、特定技能で新設された分野がそのまま育成就労の対象にもなります。
変更点3. 転籍が本人の意向で可能になる
企業が最も懸念するのが転籍の自由化です。「せっかく育てた人材が他社に引き抜かれるのではないか」という不安は当然です。ただし、転籍は無制限に認められるわけではありません。
新制度では、分野ごとに1年以上2年以下の範囲で「転籍制限期間」が設けられます。この制限期間内に転籍できるのは、パワーハラスメントなどのやむを得ない事情がある場合に限られます。制限期間を経過した後は、以下の要件を両方満たした場合に限り、本人の意思による転籍が可能となります。
- 技能要件:技能検定基礎級などの試験に合格していること
- 日本語要件:所定の日本語能力試験に合格していること(次項参照)
転籍を防ぐ有効な手段は、制度上の制限に頼ることではなく、「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる環境をつくることです。給与水準はもちろん、職場環境・キャリアパスの提示・コミュニケーションの質が、今後は選ばれる企業かどうかを左右します。
変更点4. 日本語要件が新たに設けられた
技能実習制度には日本語要件がありませんでした。育成就労制度では、就労期間を通じて段階的な日本語能力の習得が義務付けられます。
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時期 |
要件 |
できる日本語レベルの目安 |
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就労開始前 |
A1相当(N5レベル)の 講習を受講 |
挨拶や自己紹介など ゆっくりなら短い やり取りができる程度 |
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1年目修了時 |
A1相当(N5レベル)の 試験に合格 |
同上 |
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3年目修了時 |
A2相当(N4レベル)の 試験に合格 |
仕事の基本的な指示や 注意を短文なら理解して やり取りできる程度 |
3年目修了時に求められるN4レベルは、「仕事の基本的な指示や注意を短文なら理解してやり取りできる」程度の日本語力です。高い水準ではありませんが、受け入れ企業側も日本語学習を支援する環境整備が求められるようになります。
変更点5. 許可要件が厳格化される
これまでの監理団体は「監理支援機関」に名称が変わり、許可要件が大幅に厳格化されます。最も大きな変更点は、業務の中立性を担保するための外部監査人の設置が義務化されることです。
外部監査人になれるのは弁護士・社会保険労務士・行政書士等の有資格者であり、かつ受け入れ機関と利害関係のない第三者でなければなりません。現在利用中の監理団体がこの要件を満たすかどうか、早めに確認しておくことをお勧めします。
変更点6. 費用負担の仕組みが変わる
費用負担については「初期費用」と「転籍費用」の2点が大きく変わります。
まず初期費用についてです。これまで技能実習制度では、送り出し機関に支払う手数料が国によって大きく異なり、外国人本人が多額の借金を背負って来日するケースが問題となっていました。国別の現状は以下のとおりです。
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国 |
現行の送り出し機関手数料(本人負担) |
育成就労後の本人負担上限(目安) |
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ベトナム |
約68万円 |
月給2ヶ月分まで(上限設定) |
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中国 |
約59万円 |
月給2ヶ月分まで(上限設定) |
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カンボジア |
約57万円 |
月給2ヶ月分まで(上限設定) |
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フィリピン |
約9万4,000円(国が管理) |
月給2ヶ月分まで(上限設定) |
育成就労制度では、外国人本人が送り出し機関へ支払う金額の上限が「月給の2ヶ月分まで」と法的に設定されます。
これにより、特にベトナム・中国・カンボジアからの来日者については本人負担が大幅に減少する一方、その分が受け入れ企業側の負担として上乗せされる形になります。企業にとってはコスト増となる可能性が高く、事業計画への織り込みが必要です。
次に転籍費用についてです。育成就労では本人の意向による転籍が可能になるため、転籍先企業が転籍元企業に対して、採用・育成にかかった初期費用を按分して負担する仕組みが設けられます。按分率は転籍元での就労期間によって以下のとおり定められています。
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転籍元での就労期間 |
按分率(転籍先が負担) |
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1年6ヶ月未満 |
5/6 |
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1年6ヶ月以上2年未満 |
2/3 |
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2年以上(制限期間経過後) |
別途算定 |
たとえば転籍元での就労期間が1年6ヶ月未満の場合、転籍先は国が定める一定額の5/6を負担します。転籍を受け入れる立場になった場合にも費用が発生することを把握しておく必要があります。
企業が今から準備すべき3つのポイント
育成就労制度の施行は2027年ですが、準備は今から始める必要があります。法律が変わるのを待ってからでは間に合いません。企業として押さえておくべきポイントを3つに整理します。
数年で帰国する前提から「長期定着・戦力化」の視点に切り替える
これまでの技能実習制度では、制度上どうしても数年で帰国することが前提となっていました。育成就労制度では、育成就労→特定技能1号→特定技能2号へとステップアップしながら長く活躍してもらうことが基本ルートです。
「一時的な穴埋め要員」ではなく「将来のコア人材」として外国人材を位置付け、採用・教育・評価の仕組みを再設計することが求められます。現在在籍している技能実習生の特定技能への移行準備も、今から計画的に進めておくことをお勧めします。
職場環境を整備し、人材側から「選ばれる企業」になる
転籍の自由化は、企業にとって人材流出リスクとなり得ます。しかし制度上の制限期間に頼るだけでは不十分です。「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる環境をつくることが、最も効果的な離職防止策です。
- 給与水準の適正化:同等の業務を行う日本人社員と比較して不合理な差がない
- キャリアパスの明示:特定技能1号・2号へのステップアップ計画を入社時から共有する
- 職場環境・人間関係:孤立させない、相談できる環境をつくる
- 日本語学習の支援:日本語要件を満たすための学習機会を会社として提供する
コスト構造の変化を事業計画に織り込む
育成就労制度への移行に伴い、企業側の費用負担は増加する傾向にあります。外国人本人の送り出し機関手数料の一部が企業負担へシフトするほか、監理支援機関の許可要件厳格化に伴い、監理費が値上がりすることも想定されます。これらを見越した人件費・採用コストの試算と、事業計画への反映が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 現在受け入れている技能実習生はどうなりますか?
A. 2027年4月の制度施行後も、現在の技能実習生はすぐに育成就労に切り替わるわけではありません。経過措置が設けられる予定であり、在留中の技能実習生は引き続き技能実習の在留資格のまま就労を継続できます。ただし、今後の特定技能への移行計画は早めに準備しておくことをお勧めします。
Q2. 育成就労で転籍されてしまったら採用コストが無駄になりませんか?
A. 転籍費用の按分制度により、転籍先企業が転籍元企業に対して就労期間に応じた費用を支払う仕組みが設けられます。全額が無駄になるわけではありませんが、転籍リスクを低減するためにも、選ばれる職場環境の整備が重要です。
Q3. 育成就労と特定技能、どちらで採用すべきですか?
A. 即戦力が必要な場合は特定技能(試験合格者または技能実習2号修了者)、未経験者をゼロから育てたい場合は育成就労が適しています。また、育成就労は受け入れ初期のコストが高くなる傾向があるため、自社の採用ニーズとコスト計画を踏まえて選択してください。
Q4. 監理支援機関は今の監理団体をそのまま使えますか?
A. 現在の監理団体がそのまま監理支援機関として許可を受けるためには、外部監査人の設置など新たな要件を満たす必要があります。現在利用中の監理団体が要件を満たすかどうか、早めに確認しておくことをお勧めします。
Q5. 制度開始は2027年ですが、今から準備することはありますか?
A. 今から取り組めることはたくさんあります。現在の技能実習生の特定技能への移行準備、育成就労の受け入れ体制(社内教育・日本語学習支援・キャリアパス設計)の整備、監理支援機関の選定・確認、コスト増加を踏まえた事業計画の見直し等です。法律の施行を待たず、早めの準備が競争力につながります。
まとめ
技能実習から育成就労への転換は、外国人を「実習生」としてではなく「日本の産業を支える不可欠な人材」として位置付ける歴史的な転換点です。転籍の自由化・日本語要件の新設・費用負担の見直し・監理体制の厳格化など、企業の受け入れ実務に直接影響する変更が多岐にわたります。2027年の施行に向けて、今から体制の点検と準備を進めることが不可欠です。
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